幹線設計の基礎(許容電流と電圧降下)
建物の血流を決める。安全かつ無駄のない電線サイズの選び方
【超解説】とても簡単に言うと何か?
電気の幹線とは、建物の心臓部から各部屋の
分電盤まで大容量の電気を届ける太い電線です。
細すぎると発熱して火災を招き、太すぎると
コストとスペースが無駄になるため、安全かつ
経済的な太さを決める計算が「幹線設計」です。
1. 幹線設計の基本概要と役割
建物の電気を支える「大動脈」
建物の電気設備における「幹線(かんせん)」とは、
電力会社からの引込点や、建物内の受変電設備
(キュービクル)から、各階の電灯分電盤や
動力制御盤の大元まで電気を送るための、
極めて容量の大きな電路(太い電線)を指します。
末端のコンセントや照明器具へと分岐する前の、
いわば建物の「大動脈」となる最重要インフラです。
幹線の太さが不足していると、電線そのものが
異常発熱を起こして被覆が溶け、重大な火災
(線間短絡や地絡事故)を誘発する恐れがあります。
一方で、過度に太い電線を選定してしまうと、
銅価格の高騰による莫大な材料コストの増加や、
配線ダクト・シャフト内の物理的スペースを
圧迫するという、設計上の重大な損失を招きます。
この「安全性」と「経済性」の最適なバランスを
各種規格に基づいて算出するのが「幹線設計」です。
準拠すべき法律と技術基準
日本の電気設備設計においては、主に以下の基準や
法規制を厳格に遵守することが義務付けられています。
・**電気設備技術基準・解釈**(経済産業省告示)
・**内線規程(JEAC 8001)**(日本電気協会)
・**日本産業規格(JIS C 60364系規格)**
これらには、電線が安全に通電できる最大電流や、
電圧の品質を維持するための制限値が、
具体的な計算式とともに細かく規定されています。
2. 許容電流の決定要因と精密な補正計算
基底許容電流と周囲温度補正
電線に流せる限界の電流を「許容電流」と呼びます。
電線(導体)に電流が流れると、電気抵抗による
ジュール熱($I^2 R$)によって電線自体が発熱します。
この熱によって、電線を包む絶縁物(架橋ポリエチレン
やビニル)が許容最高温度(CVケーブルで90℃)
を超えないように、サイズごとに最大電流が定まります。
これが「基底許容電流(基準温度30℃)」です。
しかし、実際の配線環境は常に30℃とは限りません。
キュービクル内部や、夏の直射日光を受ける天井裏、
あるいは熱源機器の近くなどでは、周囲温度が
40℃や50℃に達することが多々あります。
熱が逃げにくくなるため、以下の計算式を用いて
許容電流を「周囲温度補正」しなければなりません。
$$\text{補正後の許容電流} = \text{基底許容電流} \times \theta_{\text{補正係数}}$$
周囲温度が40℃の場合、CVケーブルの補正係数は
一般的に約0.91となり、流せる電流は91%に低下します。
これを怠ると、設計段階で既に過負荷状態となります。
多条敷設における電流減少係数
電線は通常、1本単独で宙に浮いているわけではなく、
合成樹脂電線管(PF管・CD管)や金属電線管の中に
複数のケーブルを束ねて通線(多条敷設)します。
複数の電線が密着して互いに熱を出し合うため、
さらに熱がこもりやすくなり、許容電流は低下します。
内線規程では、同一管内の通線本数に応じて
以下の**「電流減少係数($\eta$)」**が規定されています。
| 管内または同一ダクト内の電線本数 | 電流減少係数($\eta$) |
|---|---|
| 3本以下 | 0.70 |
| 4本 | 0.63 |
| 5〜6本 | 0.56 |
| 7〜15本 | 0.49 |
例えば、基底許容電流が325AのCVT150sqケーブルを
同一系統で3本束ねて管内に収める場合、
$325\text{A} \times 0.70 = 227.5\text{A}$ まで許容電流が制限されます。
この減少係数を考慮せずに遮断器(ブレーカー)を
選定すると、電線の許容値を超えて過熱し続けます。
3. 電圧降下の理論と詳細計算式
簡易計算式と適用範囲
電線(銅導体)には微小ながら必ず「電気抵抗」が存在します。
電路の長さ(こう長)が長くなるほど電気抵抗は増加し、
電流を流した際に「電圧が途中で目減りする」という
**電圧降下(でんあつこうか)**が発生します。
内線規程や電気技術基準の解釈では、実務設計用の
簡易計算式として、以下の式が広く用いられています。
【単相2線式 / 三相4線式(相間)】
$$e = \frac{17.8 \times L \times I}{1000 \times A}$$
【三相3線式】
$$e = \frac{30.8 \times L \times I}{1000 \times A}$$
※ $e$: 電圧降下 [V]、 $L$: 電線のこう長(片道長)[m]、
$I$: 負荷電流 [A]、 $A$: 電線の公称断面積 [$\text{mm}^2$ (sq)]
この簡易式は、電線の「交流リアクタンス」や
「力率」による影響を簡略化しているため、
電線サイズが細く(おおむね38sq以下)、
こう長が比較的短い系統において非常に有効です。
交流インピーダンスによる精密計算式
電線サイズが太くなり(60sq以上)、距離が長くなると、
電線の「交流抵抗($R$)」だけでなく、電線同士の
配置によって生じる「リアクタンス($X$)」および、
負荷機器の「力率($\cos\theta$)」が無視できなくなります。
この場合は、以下のベクトル精密計算式を用います。
【三相3線式 精密式】
$$e = \sqrt{3} \times I \times L \times (R \cos\theta + X \sin\theta)$$
【単相2線式 精密式】
$$e = 2 \times I \times L \times (R \cos\theta + X \sin\theta)$$
※ $R$: ケーブルの導体交流抵抗 [$\Omega$/km]、
$X$: ケーブルの線路リアクタンス [$\Omega$/km]、
$\cos\theta$: 負荷力率、 $\sin\theta$: $\sqrt{1 - \cos^2\theta}$
長距離の大容量幹線では、リアクタンス($X$)による
電圧降下が全体の半分以上を占めることもあるため、
精密な交流インピーダンスでの計算が必須となります。
電圧降下の法的制限値
電圧が低下しすぎると、照明器具がチラついたり、
パソコンや精密機器が再起動(瞬時電圧低下)したり、
モーターがトルク不足で異常発熱・停止します。
そのため、内線規程では受電点(引込口)から
末端の負荷機器までの電圧降下を、標準電圧の
**「原則2%以内(非常用等は例外)」**と定めています。
ただし、こう長が60mを超えるような長距離幹線では、
幹線部分で3%〜5%以内とする段階的な特例も認められており、
電気事業法に定められた電気 of 供給品質基準
(101V±6V、202V±20V以内)を満たす必要があります。
4. モーター(電動機)負荷と保護協調の選定基準
電動機負荷の始動電流特性
給水ポンプや空調のファンなどのモーター(電動機)は、
回転が停止している状態から電源を投入した瞬間、
通常運転時の**約5倍〜7倍**に達する巨大な
「始動電流(突入電流)」が一瞬だけ流れます。
この始動電流によって幹線電線が熱破壊されたり、
配線用遮断器(ブレーカー)が誤作動(不要動作)
しないよう、特別な補正計算が要求されます。
内線規程による電線許容電流の選定式
同一幹線に接続される負荷にモーターが含まれる場合、
モーターの定格電流の合計($\sum I_M$)と、
その他の照明・コンセントなどの一般負荷電流の合計
($\sum I_H$)を比較し、以下の式で幹線の必要許容電流
($I_G$)を算出して電線サイズを決定します。
① $\sum I_M \le \sum I_H$ の場合(一般負荷の方が多い場合)
$$I_G \ge \sum I_M + \sum I_H$$
② $\sum I_M > \sum I_H$ の場合(モーター負荷の方が多い場合)
・$\sum I_M \le 50\text{A}$ のとき:
$$I_G \ge 1.25 \times \sum I_M + \sum I_H$$
・$\sum I_M > 50\text{A}$ のとき:
$$I_G \ge 1.15 \times \sum I_M + \sum I_H$$
このように、モーター容量が大きい場合は安全率として
15%〜25%の割増し($1.15$倍/$1.25$倍)が義務付けられており、
これによって始動時の熱的余裕を電線に与えています。
ブレーカー(過電流遮断器)との協調
万が一の過負荷やショートの際、電線が発熱で燃える前に、
ブレーカー(MCCB)が即座に回路を遮断する必要があります。
この関係性を保つ「保護協調(プロテクション)」の基本ルールは、
**「想定負荷電流 $\le$ ブレーカー定格電流 $\le$ 電線許容電流」**です。
ただし、モーター負荷がある場合は、ブレーカーの容量を
モーター始動電流でトリップしない大きさ(通常、定格電流の
約3倍以下、または電動機電流の3倍+一般負荷電流など)
にする特例があり、電線が過熱する時間(許容二乗時間特性)
よりも早くブレーカーが遮断するよう綿密に計算します。
5. 特殊設計要素(短絡許容電流と高調波)
地絡・短絡時の短絡許容電流(秒時許容電流)
万が一、ケーブルの絶縁破壊などによって短絡(ショート)
事故が発生した場合、回路には数千アンペアから数万アンペア
という極めて巨大な「短絡電流」が一瞬だけ流れます。
ブレーカーがこれを検知して遮断するまでのわずかな時間
(通常0.01秒〜0.1秒程度)の間、電線が急激な温度上昇
(最高許容温度250℃)に耐えられる必要があります。
これを検証するのが**「短絡許容電流」**の計算式です。
【短絡許容電流の計算式(銅導体・架橋PE)】
$$I = 143 \times \frac{A}{\sqrt{t}}$$
※ $I$: 短絡許容電流 [A]、 $A$: 導体断面積 [$\text{mm}^2$]、
$t$: 短絡電流の継続時間(ブレーカーの遮断時間)[秒]
高圧受電設備や、超大容量の変圧器の直下にある低圧幹線では、
定常時の許容電流よりも、この短絡時の瞬時耐熱特性によって
電線サイズがより太く決定されることが多々あります。
高調波(第3高調波)による中性線の過熱リスク
近年のオフィスビルでは、LED照明、インバータエアコン、
パソコンやサーバーなどの「非線形負荷」が大量に存在します。
これらの機器からは、交流電源の周波数の3倍にあたる
「第3高調波(150Hz/180Hz)」のひずみ電流が発生します。
三相4線式の配線系統において、各相(R相・S相・T相)に
発生した第3高調波電流は、中性線(N相)で打ち消し合わず、
逆に**中性線にすべて足し合わされて帰ってくる**特性があります。
その結果、各相の負荷電流が平衡しているにもかかわらず、
中性線に相電流の「1.5倍〜2倍」もの大電流が流れ込み、
中性線が異常発熱して焼損する事故が多発しています。
そのため、近年の高度な幹線設計では、中性線の電線サイズを
相線より細くする従来の慣習(減径)は厳禁とされ、
「相線と同一径(同径)」または「相線以上のサイズ」を
選定することが、業界の事実上の標準設計基準となっています。
6. コスト・価格の目安
幹線設備は、太い銅導体を使用するため材料費が非常に高く、
また重量があるため敷設のための「労務費」も高額です。
建物の規模ごとの一般的な導入・更新の市場相場は以下の通りです。
材料費と施工費の目安
- CVT 38sq 〜 60sq 幹線(中小規模ビル用・こう長30m程度):
30万〜80万円程度(ケーブル敷設・両端処理・配管含む) - CVT 100sq 〜 200sq 幹線(中〜大規模ビル用・こう長50m程度):
100万〜250万円程度(ラック敷設、クレーン等の揚重機含む) - 変圧器二次側 超大容量幹線(CVT 325sqなど・高圧キュービクル直下):
150万〜400万円程度/系統(極めて太く重量があるため専門特殊工) - テナントビル等の幹線増強工事(単相3線100A化等):
50万〜150万円程度/系統(既存系統の撤去・引き直し含む)
※上記相場は、2026年時点の国内の電気工事市場における
銅ベース価格(LME相場)および労務費単価に基づいています。
長距離・高所作業、夜間工事などの特殊条件下では、
別途割増し料金が加算されます。
7. 更新周期と注意点・絶対にやってはいけない悪い使用方法
更新周期と劣化診断方法
電力用幹線ケーブルおよびバスダクトの推奨更新周期は、
屋内使用で**約20〜30年**、屋外使用で**約15〜20年**です。
外観上は問題なく見えても、経年劣化による絶縁体の硬化や、
微細な水分浸入による「水トリー現象」が進行します。
年次の法定停電点検時に、メガテスター(絶縁抵抗計)を使い、
対地絶縁抵抗値(低圧で0.2MΩ以上、できれば10MΩ以上)を
測定・記録し、経時変化を監視することが極めて重要です。
絶対にやってはいけない悪い使用方法
電気工事のコストや手間を減らすために、
1本の太い電線管の中に、別系統の幹線や
分岐配線を限界までギチギチに詰め込む
施工(過密多条通線)は絶対に厳禁です。
熱が一切逃げなくなり、電流減少係数が
適用されるため、実質的な許容電流が
本来の半分以下まで極端に低下します。
そのままブレーカー制限まで電気を流すと、
管内でケーブルが熱融着し、最終的には
大爆発(線間短絡事故)を引き起こします。
太い幹線ケーブルを、エルボやプルボックスの
角部で強引に直角に折り曲げる施工は厳禁です。
CVT等の高圧・低圧ケーブルには、外径の
**「6倍〜10倍以上(シース含む)」**という
厳格な「許容曲げ半径」が定められています。
これを無視して急激に曲げると、絶縁体が
物理的に引き裂かれて薄くなり、そこから
絶縁破壊(漏電・スパーク)が発生します。
8. 関連機器・材料の紹介
- 高圧ケーブル(CV / CVT):
受変電設備に6600Vの電力を送電する、さらに高い絶縁性能を持つ大元幹線。
▶ 詳細記事はこちら - MCCB(配線用遮断器):
幹線の末端や大元に設置され、許容電流超過や短絡時に瞬時に電路を遮断する保護装置。
▶ 詳細記事はこちら - キュービクル(高圧受電設備):
高圧幹線を受け入れ、建物の低圧幹線へと電力を降圧・分配する基幹設備。
▶ 詳細記事はこちら - バスダクト:
大電力を送電する際、ケーブルの代わりに金属板(銅・アルミ)を用いる導体幹線システム。
▶ 詳細記事はこちら
9. 多角的なQ&A(20連発)
ビルの幹線が古いと何が起きる?
電線が劣化して漏電や火災のリスクが
高まり、突然の停電でテナント全体の
業務が停止する最悪の事態になります。
エアコンを増設したらブレーカーが落ちる
エアコンは電力を大量消費するため、
個別のブレーカーだけでなく、建物全体の
幹線容量が不足している可能性があります。
オール電化への改修で幹線工事が必要?
必要です。IHやエコキュートの導入で
必要電流が跳ね上がるため、引き込み線と
幹線を太く引き直す工事が必須です。
電気料金削減に幹線設計は関係ある?
関係あります。需要率を考慮して無駄な
過剰設計を防ぎ、基本料金のベースとなる
契約電力(デマンド値)を適正化できます。
電線が太い方が電気代が安くなる?
わずかですが安くなります。電線が太い
ほど電気抵抗(ロス)が減り、熱として
無駄に消える電力量を削減できるためです。
CVTケーブルの許容曲げ半径の測り方は?
単心ケーブルの外径を測定し、その
6倍(単心)または8〜10倍(トリプレックス)
以上の半径で緩やかに曲げて施工します。
電線管内への入線でシリコン剤は使ってOK?
潤滑用の入線剤(通線用スプレー等)は
使用可能ですが、シース材(PVC)を
劣化させない中性の専用品を使用します。
プルボックス内で幹線の中間接続は可能?
原則として幹線は無接続で通線しますが、
やむを得ない場合は、圧縮端子や直線スリーブ
を用い、二重以上の絶縁処理を施します。
通線時にウインチで引く際の注意点は?
ケーブルの許容張力(導体断面積あたり
一定値)を超えないよう張力計で監視し、
シースに傷がつかないよう管口ローラーを設置します。
CVTとCVの単心3本引きの違いは?
CVTは最初から3本の単心線が撚り合わさって
いるため、熱の放散が良く、1本ずつ通線
するよりも施工の手間が大幅に削減されます。
需要率の算定基準はどう決める?
JIS C 60364や内線規程に基づき、
建物の用途(事務所・マンション等)や
負荷の総容量から最適な需要率を選定します。
幹線設計承認図で一番重視する項目は?
許容電流が減少係数や温度補正後も
遮断器定格を上回っているか(保護協調)、
末端の電圧降下が制限値内であるかです。
幹線ルートがシャフトを通る際の防火区画は?
幹線が防火床や壁を貫通する部分は、
国土交通大臣認定の耐火充填材を用いて、
厳重に防火区画処理(シール)を行います。
高調波対策が必要な幹線を見分ける方法は?
サーバーやLED、インバータなどの
非線形負荷が全体の70%を超える系統は、
中性線の高調波対策(同径化)が必須です。
既設の低圧幹線を流用する際の確認事項は?
メガテスターによる絶縁抵抗測定と、
通電状態で赤外線カメラによる接続部の
温度測定を行い、経年劣化状況を把握します。
年次点検でのシース絶縁測定の目的は?
ケーブル外皮(シース)に傷があり、
雨水が侵入して電気的な「水トリー」が
進行していないかを検知して漏電を防ぎます。
幹線接続部のサーモグラフィ測定の基準は?
周囲温度との差(温度上昇値)が
10℃以上の場合は「要注意」、20℃以上の
場合は「要異常対策」として増し締めします。
バスダクト接続部のボルトのゆるみ管理は?
締付トルク値の管理と、ゆるみ確認用の
合いマーク(ペイントライン)のズレを
目視で確認し、熱変化による脱落を防ぎます。
絶縁抵抗値が低下した場合の緊急対処は?
回路を細分化して測定し、漏電箇所を
特定。仮設ケーブルのバイパス敷設や、
対象系統の負荷を制限して過熱を防ぎます。
メガ測定時の印加電圧の適切な選定は?
低圧回路(100V/200V)では500Vメガ、
高圧回路(6600V等)では1000Vまたは
2000Vメガを使用して適切な値を測定します。
参考規格・出典
- 内線規程 JEAC 8001-2022 第3章
- 電気設備技術基準・解釈 第146条〜第148条
- 電気技術者・設計者のための幹線設計実務マニュアル